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フリースクールは義務教育の代わりにならない?│憲法と法律と現実を解説します

2021/08/06

お子さんが不登校の場合
こんなことが心配になりませんか?
「教育の義務」を果たしていないから、罰せられるのでは…

その心配も当然です。
小学校、中学校に通う(通わせる)のは「義務教育」なのですから。

では、小中学校の代わりにフリースクールに通うのは
義務教育の代わりになるのか、ならないのか?

ちょっと複雑な話になりますが
憲法、法律、そして実際の教育現場
という3つの視点から解説します。

1. 憲法における教育の義務

憲法第26条で「教育の義務」を定めています。
しかし、これは子どもを力づくで学校に行かせる義務ではないのです。

憲法では普通教育を受けさせる義務とだけ述べています。
しかし、学校に行かせる義務とは一言もいっていないのです。

具体的な条文で見てみましょう。
憲法第26条の条文は以下の通りです。

第 26 条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

ご覧の通り、第26条で定めているのは、次の2つのことです。

子どもが教育を受ける権利
国が「無償の教育環境を整える」義務、そして親が「教育の機会を与える」義務
この背景にあるのは、第二次世界大戦までの日本の状況です。
貧しい農村地区などでは子どもは貴重な労働力として扱われました。

そして親が学校に行かせずに働かせることが珍しくありませんでした。
つまり子どもが教育を受ける機会を奪うケースがあったのです。

だから、憲法第26条で定めた趣旨は、思いっきり分かりやすくいえばこういうことなのです。

親は子どもを働かせるのではなく
教育の機会を与える義務があります
費用は国が負担するから安心してください
また、もうひとつ注意いただきたい点があります。
憲法は「教育」に関する義務について述べています。
しかし「教育=学校」とは述べていません。

これについて更に深くは、以下の法律論で見ていきましょう。

2. 法律における教育の義務

保護者に対し、教育基本法第5条第1項で就学義務を定めています。
この法律の条文は以下の通りです。
教育基本法第5条第1項
すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

就学義務とは、文部科学省が以下のように定めています。

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就学義務とは、日本国民である保護者に対し、子に小学校6年間、中学校3年間の教育を受けさせる義務を課したものです。
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また、就学義務の具体的内容について教育基本法で定めています。
以下は文部科学省のホームページから抜粋した内容です。

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学校教育法では、第16条で「保護者は・・・子に9年の普通教育を受けさせる義務を負う。」とあり、次いで第17条第1項で「保護者は、子の満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満12歳に達した日の属する学年の終わりまで・・・就学させる義務を負う。」とされ、同条第2項で「・・・満十五歳に達した日の属する学年の終わりまで、・・・就学させる義務を負う。」と規定されています。
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つまり、法律では保護者に対して、明確に「小学校6年間と中学校3年間の合計9年間、学校に通わせる義務」を定めていることになります。

では、もしもこの義務に違反したらどうなるのでしょうか。

2.1 就学義務の規定

小中学校を一週間以上欠席すると、教育委員会は児童生徒の保護者に対して出席を督促します。
督促されても子どもを学校に通わせなかった場合、保護者に対して「10万円以下の罰金」という行政罰が加えられます。

この根拠は、学校教育法の以下の条文にあります。

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学校教育法144条(就学義務違反の罪)
第17条第1項又は第2項の義務の履行の督促を受け、なお履行しないものは、10万円の罰金に処する。
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このように、就学義務は法律で厳しく定められています。
ただし、この義務が免除される場合もあります。

2.2 就学義務の免除

就学義務が猶予又は免除される場合があります。
具体的には学校教育法第18条に以下のように定められています。
病弱、発育不完全その他やむを得ない事由のため就学困難と認められる場合は就学義務が猶予又は免除されるとあります。

ただし「病弱、発育不完全」とは、治療又は生命・健康の維持のため療養に専念することを必要とし、教育を受けることが困難又は不可能な者を対象としているところです。

分かりやすくいえば長期入院を除けば必ず学校に行かなければならないということになります。

3. 実際の教育現場

日本において保護者が子どもを強制労働させて学校に行かせない事例はあり得ない、と言ってもいいでしょう。
問題は「子どもが学校に行きたがらない」不登校の場合にどうするか、という点です。

戦後長い間、学校に行かないのは登校拒否症という怠け病のように扱われていました。
しかし、不登校は誰にでも生じ得る、という世間の理解が次第に広まってきました。

学校に行かない不利益よりも、「学校に行くことを強制される不利益」の方が大きいという場合
子どもの人権を守る観点から不登校は就学義務を履行しない「正当な理由」と解釈されるようになりました。

すなわち子どもが学校に行くのが怖い場合に無理やり行かせるべきでないと認められるようになったのです。

そして2003年からは教育委員会が運営する教育支援センターあるいは民間のフリースクールに通うことを「学校の出席とみなす」ことが可能になりました。

2016年には普通教育機会確保法案が成立しました。
この法律では以下のように定められています。

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児童生徒の意思を十分に尊重して支援が行われるよう配慮すること,不登校というだけで問題行動であると受け取られないよう配慮すること,例えばいじめから身を守るために一定期間休むことを認めるなど児童生徒の状況に応じた支援を行うこと
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つまり不登校は教育の義務に反することではないと認められたのです。
またフリースクールなど民間教育施設と学校が連携をとっていくことも推奨されました。

こうして、義務教育という名目で、不登校の子どもを無理やり学校に行かせることはなくなってきました。

ー コラム ー

1983年に戸塚ヨットスクール事件がおきました。
不登校の生徒などを鍛え上げる訓練と称して体罰が繰り返され、ついに死者まで生じたのです。
この頃、学校に行こうとしないのは怠け病であるとみなす風潮がありました。
そして厳しく締め付ければ根性が叩き直されるという誤った考え方が広まっていたのです。
この事件を契機に、世間も不登校についての考えを改め「子どもの命が一番大切」と見直されるようになりました。

4. まとめ

義務教育について、3つの視点からみることができます。

憲法では保護者が子どもに「教育の機会を与える義務」を定めています。
しかし、学校に行かせる義務とは述べていません。

学校教育法では就学義務を定めています。
学校に通わせなかった保護者には「10万円以下の罰金」という行政罰が課される場合があります。

実際には保護者が子どもをわざと学校に通わせないことは皆無です。
問題は子どもが学校に行きたくない不登校の場合です。

不登校は怠け病ではなく、誰にでも起き得ると理解されるようになりました。
子どもが学校に行くのが怖い場合に無理やり行かせるべきでないと認められました。

2003年からはフリースクール等に通うことが学校の出席と認められ得るようになりました。
こうして、義務教育という名目で、不登校の子どもを無理やり学校に行かせることはなくなってきました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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